王義之と日本の書
2017/11/20

・会期:平成30年2月10日(土)〜 4月8日(日)

 ・休館日:毎週月曜日ただし2月12日(月・振休)は開館、2月13日(火)は休館

・開館時間:金曜日・土曜日【夜間開館

      9時30分〜20時00分(入館は19時30分まで)

・観覧料:

一 般 1,600円(1,400円)

高大生 1,000円(800円)

小中生 600円(400円)


【夜間割引料金】

一 般 1,400円

高大生 800円

小中生 400円

(夜間開館当日17時以降に当館内券売所で販売。夜間割引料金で購入されたチケットで17時以前に入場することはできません。)

*( )内は前売りおよび団体料金(有料の方が20名以上の場合)。
*上記料金で九州国立博物館4階「文化交流展(平常展)」もご観覧いただけます。
*障害者手帳等をご持参の方とその介護者1名は無料です。展示室入口にて障害者手帳等(*)をご提示ください。
(*)身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、戦傷病者手帳、被爆者健康手帳、特定疾患医療受給者証
*満65歳以上の方は前売り一般料金でご購入いただけます。券売所にて生年月日がわかるもの(健康保険証・運転免許証等)をご提示ください。
*小中生、高大生は学生証等をご提示ください。
*キャンパスメンバーズの方は団体料金でご購入いただけます。券売所にて学生証、教職員証等をご提示ください。
*チケット販売窓口では下記の電子マネー及びクレジットカードがご利用いただけます。

050-5542-8600(NTTハローダイヤル 午前8時〜午後10時/年中無休)


展覧会構成

第1章 王羲之へのあこがれ

7世紀・中国唐時代、当時最も尊重・愛玩された書が4世紀・東晋時代の王羲之の書であった。唐の皇帝太宗は、中国全土の王羲之の肉筆を収集し、その精巧な摸本を作らせた。奈良時代、日本にも遣唐使によってその一部が将来された。以後、日本人の書法の師(手師(てし))として尊敬された王羲之は、日本の書の源流であり根幹となった。平安時代初期、入唐した空海・最澄らは唐時代の書の文化を吸収して帰国。8〜9世紀の日本は、唐時代の文化と書法に強いあこがれを抱き、王羲之を頂点とする漢字書法の吸収に邁進した時代であった。

日本の書の母胎としての王羲之

4世紀の中国の貴族で、書の歴史に偉大な足跡をのこす王羲之(303〜361、異説あり)。楷書・行書・草書の各書体を洗練させ、今に至るまで書法の最高の規範となったため「書聖」とあがめられる。その自筆は人災・天災によりすでに無く、精巧に作られた歴史的な複製でその書が認識される。
なかでも「喪乱帖」(宮内庁三の丸尚蔵館)は、国宝「孔侍中帖」(前田育徳会)とともに劇跡と名高く、王羲之の書の真骨頂として評価が高い。本展では「妹至帖」(九州国立博物館)、「大報帖」と合わせた世界的にもトップクラスの王羲之の書4件が集結する。

まいしじょう

妹至帖

1幅
(搨摸)唐時代・7〜8世紀
(原跡)王羲之筆 東晋時代・4世紀
九州国立博物館


謙虚で清らか、最澄の手紙

国宝久隔帖(      きゅうかくじょう)  最澄(さいちょう)

1幅
平安時代・弘仁4年(813)
奈良国立博物館

【展示期間】3月13日(火)〜4月8日(日)

初め最澄に入門し、空海のもとで修行中の弟子泰範(たいはん)に宛てた書状。現存唯一の最澄自筆書状で、最澄が空海に文献を借用したいと乞う内容である。筆鋒(ひっぽう)の弾力を活かした細くしなやかな線が、書風の清らかさとともに見どころである。


これぞ、堂々の空海の肉筆!

国宝 灌頂歴名(かんじょうれきめい)  空海(くうかい)

1巻
平安時代・弘仁3〜4年(812〜813)
京都・神護寺

【展示期間】3月13日(火)〜3月25日(日)

空海が神護寺において灌頂を授けた人物と、それぞれが結縁した密教の仏・菩薩を列記したもの。筆の先端だけでなく筆の腹も用いた肉太な線や文字の構えに、王羲之に加えて8世紀・中国の書法の影響が指摘される。


圧巻!うねる帝王の書

国宝 光定戒牒(こうじょうかいちょう)  嵯峨天皇(さがてんのう)

1巻
平安時代・弘仁14年(823)
滋賀・延暦寺

【展示期間】通期

最澄の高弟光定が菩薩戒を受けた際に、嵯峨天皇が特別に自筆でしたためた戒牒という文書。中国書法に深い関心を寄せ、空海に書法を問い、研鑽を積んだ嵯峨天皇の確実な自筆として貴重。通常は勅封の筥に入り、今回特別に公開される。

第2章 和様(わよう)の書と平仮名の完成

9世紀後半、漢字の草書体から「平仮名」が誕生した。それまで日本人は固有の文字をもたず、漢字の音訓をあてて日本語の音や語感を表記したが、平仮名によって思考や心情に添って日本語を書き表すことが可能となった。その後10世紀初頭に物語や随筆などの王朝文学が隆盛するとともに、仮名の書きぶりはさらに洗練されていった。一方、10〜11世紀には、王羲之を源とし、当時の美意識を加えた書法が、三跡(さんせき)小野道風(おののみちかぜ)藤原佐理(ふじわらのすけまさ)藤原行成(ふじわらのゆきなり))によって確立される。穏和な字姿の「和様」の書である。曲線的な筆遣いを特徴とする書きぶりの漢字は平仮名と相性が良く、以後、漢字仮名交じり文は、日本語表記に不動の地位を築くこととなった。

主な作品

書かれてちょうど1000年!

国宝 白氏詩巻(はくししかん)  藤原行成(ふじわらのゆきなり)

1巻
平安時代・寛仁2年(1018)
東京国立博物館

【展示期間】3月13日(火)〜4月8日(日)

藤原行成は、王羲之や小野道風の書法に学び、字形に丸みのある柔和で温雅な行書体の典型を築いて和様の書を大成した。本展が開催される2018年は、書かれてちょうど1000年目の節目にあたる。


第3章 和漢の書の新展開


和様の書は、漢字仮名交じり文の展開により広く定着して以降、中世において表現面で大いに進化を遂げた。書論や故実が生まれ、その伝承と書の型の踏襲を重視する立場から書流が発生し、「書道」が確立した。一方、中国は宋時代を迎え、字姿の均整よりも筆者の心情を優先させた新たな書法が興隆した。この中国書法は当時最新の仏教である禅とともに日本に将来され、禅僧をはじめとする知識層を中心に広がりをみせた。鎌倉から室町時代、中国的な詩文は中国書法を、日本語の和歌や実用の文書は伝統的な和様の書法で主に書かれたが、両者は緩やかに影響しあって書の流れを形成した。

主な作品


最先端の書を手中に

国宝 誓願寺盂蘭盆縁起(せいがんじうらぼんえんぎ)  栄西(ようさい)

1巻
平安時代・治承2年(1178)
福岡・誓願寺

【展示期間】通期

誓願寺(福岡市西区今津)に伝わる栄西自筆の作品。亡者に食物を捧げて成仏するよう供養する盂蘭盆会において、住民の協力を得て法華一品経を書写したことの意義などを述べる。その書は中国の黄庭堅(こうていけん)(1045〜1105)の書法の影響を受けたもので、仁安3年(1168)の渡宋の折に見聞したものと思われる。


二字にみる、不即不離の関係


国宝 関山号(かんざんごう)  宗峰妙超(しゅうほうみょうちょう)

1幅
鎌倉時代・嘉暦4年(1329)
京都・妙心寺

【展示期間】3月13日(火)〜4月8日(日)

関と山の二文字の間隔を、最大限に広くとり、文字どうしが静かに響きあう。広い字間を制する二文字の存在感は、修行に裏打ちされた禅僧ならではと思わせる。


股肱(ここう)(しん)への最後の文


国宝 御手印置文(おていんおきぶみ)  後鳥羽天皇(ごとばてんのう)

1巻
鎌倉時代・暦仁2年(1239)
大阪・水無瀬神宮

【展示期間】3月13日(火)〜4月8日(日)

死期を悟った後鳥羽天皇が、水無瀬親成(みなせちかしげ)に自らの菩提をとむらうよう託し、長年の功績に報いて所領を安堵したもの。直々に押された手印は文書の正当性と効力を保証している。公式な場で男性が用いる漢文体ではなく、漢字仮名交じり文を用いて心の内を語るように筆を進めている。この十三日後に後鳥羽天皇は崩御した。


第4章 書の(たの)しみと花開く個性

16世紀末に戦乱の世が終息し、さらに江戸時代になると、社会の安定とともに経済と文化が飛躍的に進展した。江戸幕府が公式書体と定めた「御家流(おいえりゅう)」は、寺子屋でも教えられたことで庶民層の日常書体となり、高い識字率に象徴される民衆文化が広く展開した。その御家流の祖は、中世の尊円親王や伏見天皇、古代の藤原行成や小野道風、さらには王羲之にまで遡ることができる。また、長崎を通じて中国から流入した唐様(からよう)という新たな書法は、儒者や文人等の知識層に愛好され、やがて庶民層にも洒脱な文字として受け入れられた。実用と芸術の両面で書の恩恵とたのしさを、幅広い階層が享受した時代であった。


主な作品


字を絵で置き換えた大胆さ


京都市指定文化財 檜原図屏風(ひばらずびょうぶ)  近衞信尹(このえのぶただ)筆  長谷川等伯(はせがわとうはく)


6曲1隻
江戸時代・17世紀
京都・禅林寺

展示期間】2月10日(土)〜3月11日(日)

「初瀬山 夕越え暮れて 宿問えば 三輪の檜原に 秋風ぞ吹く」の一首を近衞信尹が大字(だいじ)の仮名で直書(じかが)きする。「三輪の檜原に」を文字として書かず、長谷川等伯の下絵に託して、書と画で一体化した世界を表現している。

西郷どんの真骨頂!

額字「敬天愛人」(がくじ けいてんあいじん)  西郷隆盛(さいごうたかもり)

1面
明治時代・19世紀
東京国立博物館

【展示期間】2月10日(土)〜3月11日(日)

「天を敬い、人を愛す」。西郷隆盛の人生観の結晶ともいえる言葉。個性的な字姿の四文字が、目に見えない関係で繋がる。「敬天愛」の三字の起筆は横へと視線をいざない、「人」の最 終画はそれぞれの横からの 動きを静かに受け止めている。

俳諧による書画一致の世界


重要文化財 踊図(おどりず)  与謝蕪村(よさぶそん)

1幅
江戸時代・18世紀
国(文化庁保管)

【展示期間】3月13日(火)〜4月8日(日)

書・画・俳諧に才能を発揮した与謝蕪村の筆になる作品。上部に「四五人に 月落 かかる おどりかな」と賛を書き、月下に踊りに興じる庶民を描く。書と絵が一体となって月夜の楽しい雰囲気を伝える。